21 物品管理の問題打破のためにSPD導入 師長会でプレゼン

 奈須は、師長会が始まり、定例の報告事項を聴いていた。奈須の病棟は稼働率も良く、平均在院日数も短かったため、今月は病棟として充実していた。師長会が始まって少したってから、院長と事務部長も師長会に参加してきた。どうやら、物品管理の議論のために看護部長が参加を働き掛けたようである。

 事務部長の三和は、銀行を早期退職して、日本総合病院の事務長となった経歴を持つ。金勘定には鋭いが、医療のことは分かっていないのが困るところである。

斉藤:それでは、奈須師長、物品管理について説明してください。

奈須:では、病院の物品管理と今後について、簡単に説明したいと思います。

 奈須が、プレゼンを始める。

奈須:物品管理について説明します。まずその前に、今日は、皆さんと議論ができるようにスライドを作りました。さまざまなご意見をいただければと思います。では、

(スライド5)をご覧ください。物品管理については、どの病院にとっても課題となっています。医療材料は種類が多く、皆さんも病棟での管理では困っているのではないでしょうか。注射針1つをとっても長さやゲージが違います。このように考えると物品管理は、簡単ではありません。次に、これまで物品管理は、一般的に病院の用度課が購入し、物品の配達を看護助手やメッセンジャーが行っていました。緊急で物品が必要になると、用度課まで看護師が走って取りに行ったり、問屋に連絡して持ってきてもらうこともあったと思います。我々の看護業務において、物品管理が結構な手間であることが想像できます。物品管理を合理化すれば、看護師はその手間からの解放され、業務時間を患者さんのための時間へ振り分けることが可能となります。これにより、看護業務は効率的となり、入院患者の増加や、平均在院日数を短縮できる可能性があります。

 スライド6では、理想的な物品管理システムとして、SPDについて説明します。皆さんは、SPDについて聞いたことはありませんか。SPDとは、サプライ・プロセッシング・アンド・ディストリビューションと言います。物品の必要量が計算され適切なタイミングで運ばれてくる物流システムのことです。「」がこれにあたります。SPDは、理想の在庫数を把握し、適切なタイミングでの物品の補充をコンピュータで計算します。このシステムを導入すると年度末の医療材料の棚卸が必要なくなったり、特定保険医療材料の算定漏れが減少することができるなどのメリットがあります。

 スライド7)は、SPDの導入に必要なことについて説明します。SPDには専用の物品管理システムが必要で、入出庫の管理にバーコードを利用します。コンビニエンスストアのレジで使っているようなバーコードリーダーやバーコード発行プリンタ、物品管理のソフトとパソコンが必要となります。バーコードで管理することにより、どこの病棟で何が何個使用したといったことまで分かるように、ソフトを設定することも可能です。物品専門の管理者を置くことも必要です。物品専門の管理者は、定数の決定などを行う中枢部分となります。これまでの物品棚ではなく、新たな棚を購入した方が、整然と物品を並べることができます。

 スライド8)では、SPDを導入するためのデシジョンツリーを作りました。SPDの導入は、委託で行うか自前で行うか選択ができます。自前で行う場合は、先ほどシステムを購入し担当者を設置する必要があります。委託で行う場合は、フルサービスで行うか部分サービスで行うかを選択することになります。フルサービスは、システムを持ち込んでもらい、専門の人も派遣してもらうので、物品管理については、手間いらずになります。中央材料庫から各病棟などへ配達してもらえるサービスも選択できます。部分サービスは、システムの導入と月に1度物品管理委員会などへ出席してもらう程度になります。これらがSPDの委託の形態ということです。通常は、委託で導入する病院が多いそうです。何か質問ありますか?

 いち早く、事務部長の三和太郎(さんわたろう)が手を挙げた。

三和:SPDについては、病院経営の雑誌でよく見かけますが、大体どのくらい費用がかかるものでしょうか?

奈須:今回は、見積りを取っていないので、何とも言えません。

三和:看護業務が減少した分、平均在院日数が短縮されたり、残業が減るのであれば、導入効果があると思います。しかし、見積りを見て費用対効果が図れなければ、導入は難しいですよ。

斉藤:三和さん、今日は、奈須師長に私が、物品管理の現状と、どのようにしたらいいのかプレゼンするように頼んだので、奈須が、SPDを要望しているわけではないですよ。前向きに、今日のプレゼンを聴いてください。

上村:SPDは、結構いいんじゃないかな。看護部が少しでも楽になれば、職員の定着も良くなるし、斉藤部長SPDを具体的に検討しよう。三和部長も頼むよ、前向きにね。

斉藤:ほかに質問はないですか?

鈴本:私は、パソコンが使えないので、こういうシステムを導入されると困ります。

奈須:SPDでパソコンを使う人は、物品専門の管理者だけになります。看護師は、使った医療材料のバーコードのカードを箱に入れればいいのです。

鈴本:そうですか。

斉藤:鈴本さん、新しい変化についていかないと大変よ。がんばりましょう。ほかに質問がなければ、物品管理についての奈須師長の報告を終わりにします。奈須師長、すごく良い発表ありがとう。

 このプレゼンで、奈須の評価も上がった。後で、聞いた話だが、院長も奈須のことをほめていたとのことであった。